■ なぜ作ったのか
行動中に必要な物は、手元にまとまっていた方がラク。
秋冬は出し入れする物が増える季節で、
Fanny Pack Boost よりもう一段階のゆとりが扱いやすかった。
その延長で、Boost の形ではなく 発想を大きくした形 が Trail Tank の始まり。
Boost が 軽快さと身体の一体感、
Trail Tank は 荷重の安定性と拡張性 に重点を置いています。
■ 形の理由
昔から建築や工芸では「角を取ることで軽さと強さが生まれる」と言われています。
応力が一点に集まらず、形が自然に立ち上がる。
僕はこの考え方を、自分のものづくりの基準としてずっと使っています。
Trail Tank はその考え方がいちばん素直に出ている形です。
● カーブドテーパード(立体カーブの本体)
前傾姿勢・足上げで邪魔にならない
余る部分がなく、収納効率が高い
カーブファスナーは装着状態でも手が自然に入る
角が無いから痛みにくい
直線で箱を作るより、カーブで立体を作る方が安定する。
横長で角のない反り上がるフォルムは、荷物が入るほど自然に立ち上がり、ブレが減る。
動きながら扱う前提では、直線よりカーブの方が素直だった。
● フロントポケット(Dyneema Stretch Mesh)
行動中に一番触る場所。
簡単に出し入れできるスペース。

● メイン気室
手袋・ネックゲイター・行動食・コンデジ・FAK・スキンケア類など、
行動中に使う物は全部ここに押し込める。
● インナーポケット(Keyループ付き)
鍵やカードなど、落としたくない物の逃がし場。
ストレッチにした理由:装着すると生地が横に張って出し入れしにくい。
ストレッチは、上から手を突っ込めてミニポケット感覚で使える。かさばる形のヘッデンもそのまま入る。
● 背面スマホポケット
クッションスリーブ
重いものは 体側で押さえるのが一番揺れない。
スマホを背面に置くことで、前後のブレが大幅に減る。
Boost で効果があった構造をそのまま採用。
■ まとめ
Trail Tank は、行動中の必要物をまとめるための、安定した立体構造のファニーパックです。
ー軽さと強さ
Trail Tank を半年ほど使ってきて、あらためて思うことがあります。
それは、カーブラインがずっと崩れずに保たれているということ。
角があると、生地は余ります。
使っていくうちに、その部分が潰れたり、ヨレたりして、少しずつ傷みやすくなります。
Trail Tank は角をなくしたカーブ構造で、力が全体に流れる形。
だから歪みにくく、型崩れが起きやすい DCF Hybrid でも、丸い張りがずっと残っています。
■ 角をなくすと「軽さ」と「強さ」が両立する
角を取ることで、生地にかかる力が散って形が保たれる。
この発想自体は古くからあって、建築や工芸、工業デザインでも同じ考え方が見られます。
飛行機の窓が四角から丸に変わったのも、角に負荷が集中して割れたから。
余計な補強がいらず、シンプルな構造で軽さと強さを出せる。
■ 素材だけに頼らず、リソースを活かす
軽さや強さは素材の性能だけで語られがちです。
もちろん素材は進化していて、軽くて強いものが増えています。
でも、どんな素材にも長所と短所があって、それは変えられません。
限られたリソースを、形・構造・縫い方でどう活かすか。
ここに作り手としての工夫があると思っています。
角をなくして力を流す、負荷のかかる点を減らす。
そういう積み重ねで、素材のポテンシャルは大きく変わるんじゃないかなと感じています。
軽さも強さも、
素材 × 形 × 作り方 の組み合わせで成立するものだと感じています。
■ 軽くすることの意味は、単なる「軽量化」じゃない
軽くする意味にはいくつかあります。
● 機能的な意味
・疲労を減らす:長時間動いたときの負担を下げる。
・可動域を広げる:軽い=しなやか。体の動きにストレスが出にくい。
・瞬発的に動ける:軽い装備は気づいたらすぐ動ける状態をつくる。
● 構造的な意味
・最小限で成立する形を探すこと:削ぎ落としではなく、無理のない形を見つけること。
(構造的に強い形は、結果として軽くなる。)
・素材の性能を最大限に活かす:無駄な補強や縫い目を減らすことで、生地そのものの力を引き出す。
● 感覚的・文化的な意味
・装備との距離を近づける:軽いものは日常とフィールドの行き来が自然になる。
・ロングトレイルでの考え方:重さを減らす=余計な価値観を減らすことにつながる。
・補修しながら使う関係性:軽くつくることは使い捨てではなく、直しながら続けられる道具でもある。
軽くするって、単に重量を減らすだけじゃなくて、動きやすさや形の自然さを探すことでもあると思っています。
軽くして終わりじゃなくて、軽くなっても成立する形を見つける感じです。
■ 軽さにはトレードオフがある
軽量素材はどうしても持ちが落ちます。
ハイエンド素材も、軽さに優れている反面、フィルム層の経年変化や傷みは避けられません。
だから、
・ライナーパックで補う
・必要に応じて直しながら使う
といった受け入れながら使うほうが現実的です。
完璧な素材はないので、
僕は構造で持ちを稼ぐことも、少なからずできると思っています。
だから形で補える部分も大きいと思います
■ 「形は体験しないと語れない」
例えば、バックパックは、歴史や系譜では語られるけど、形や構造、作り手の意図は言葉に残りにくい。
資料も少なく、設計者の意図って実感としては伝わりづらい部分です。
こういう設計思想があります。
“Design with intent — every gram must justify its existence.”
(意図を持って設計する。すべての1gには存在理由がある。)
これはとてもよく分かるし、僕も共感している部分があります。
ただ実際に作って、試して、壊して、また作っていくと、
「理由を決めて設計する」 という順番だけでは辿り着けない形があることも分かりました。
CORDURAで作ったTrail Tank Flip Lockが、重さのイメージを裏切って軽い動きを出したとき、
それを強く感じました。
意図していたわけではなく、結果としてそうなった。
こういう“体験からしか分からない形”は、
既存の設計思想では説明しにくくて、
自分の中でもまだ言葉にしている途中です。
歴史は共有できるけど、形は体験しないと言語化しにくい。
まだ誰も言葉にしていないような部分を、自分の言葉で少しずつ残していければと思ってます。

